好文亭11か月ぶり公開 壁に地元の黄土
2012年2月8日 読売新聞からのコピーです。
震災の崖崩れで偶然発見

土壁などの修復が完了し、公開された好文亭(水戸市の偕楽園で)  東日本大震災で壁や建具に被害を受け、修復作業が行われていた水戸市・偕楽園の好文亭が7日、11か月ぶりに一般公開を再開した。崩れ落ちた土壁に、偶然発見された地元の黄土を使用し、江戸時代に建設された当時の趣を守った。シンボルの建物の再建で偕楽園は全面復旧となり、春の観梅客を迎える準備が整った。

 偕楽園公園センターによると、建物周辺は亀裂や段差が生じ、内外壁の土壁が剥離、ふすまや障子戸が脱落するなどした。全体の約4割が崩れ落ちた土壁の修復は、文化財の修復設計を専門とする都内の業者が担当し、昨年7月から約半年かけて作業を進めてきた。

 土壁に使用されていたのは、地元で掘り起こされた濃いクリーム色が特徴の黄土。区画整備などが進んだ現在では同じ黄土の入手が困難なため、崩れ落ちた土の再利用も試みたが、ゴミなどが混入し十分な量が確保できなかった。

 転機は、修復作業を担当した伊藤平左ェ門建築事務所(東京都新宿区)の一級建築士、根岸広人さん(42)が、水戸に向かうJR常磐線の列車に乗車しているときだった。偕楽園を500メートル過ぎた辺りで、震災で崩れた黄土の断層が目に飛び込んできた。電車を降りると、すぐに現地に向かった。土の手触りや色合いを確かめた根岸さんは「これなら雰囲気を壊さずに直せる」と確信した。

 採取した黄土は天日で乾燥させた後、何度もふるいにかけ、当時の粒子の大きさもそろえて上塗りの材料にした。さらに、のりとなる海藻を混ぜ込み、1・5〜2ミリの厚さで薄く塗り仕上げた。

 修復費用は約3700万円で、そのうち約2100万円は市民らによる寄付が充てられた。同センターの秋山稔センター長(58)は「震災前と同じような雰囲気に修復することができて良かった」と話した。

 この日は建物前で偕楽園の全面復旧を祝う記念式典が開かれ、来館者ら約100人が詰めかけた。橋本知事は「好文亭の復旧は震災復興の大きな一歩」とあいさつした。館内には、好文亭や偕楽園の被災直後と復旧後の写真を並べたパネルも設置された。再開を楽しみにしていたという水戸市上水戸、石川美登子さん(64)は「幼い頃からなじみの場所。震災前と変わらない姿に感動した」と喜んでいた。好文亭は12日まで無料開放される。

(2012年2月8日 読売新聞